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東京地方裁判所 平成8年(ワ)21631号 判決

イタリア国

一-二〇一二九 ミラノ市 チェラディーニ通り一一/A

第一事件及び第二事件原告

ムーンシャドウ ソシエテペル アチオニ

(以下「原告ムーンシャドウ」ともいう。)

右代表者社長

マルコ ゴベッティ

東京都港区南青山四丁目二三番一一号

同(以下「原告寿司」ともいう。)

株式会社寿司

右代表者代表取締役

鈴木剛子

原告ら訴訟代理人弁護士

神谷光弘

矢嶋雅子

田中久也

兵庫県姫路市花田町高木二〇

第一事件被告(以下「被告金田」ともいう。)

「ミキコーポレーション」こと

「モードロイヤル」こと

「金姫商店」こと

金田章敬

東京都荒川区南千住三丁目二番三号

第二事件被告(以下「被告ミチカ」ともいう。)

有限会社ミチカ

右代表者取締役

山﨑昌和

被告ら訴訟代理人弁護士

寺島健造

主文

一  被告金田章敬は、別紙標章目録(一)記載の各標章及び「MOSCHINO」又は「モスキーノ」の文字を含む標章(以下「被告金田差止標章」という。)を、被告有限会社ミチカは、別紙標章目録(二)記載の各標章及び「MOSCHINO」又は「モスキーノ」の文字を含む標章(以下「被告ミチカ差止標章」という。)を、それぞれ、自己の商品である靴類、鞄類、右商品の包装、又は右商品に関する広告、定価表若しくは取引書類に付して使用し、又は各被告についてそれぞれ差止の対象となった標章を付した右商品を販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告金田章敬は被告金田差止標章を、被告有限会社ミチカは被告ミチカ差止標章を、それぞれ、自己の靴類、鞄類の製造、販売の営業表示として使用(看板、店内外装飾、マット、名刺、シール、広告、定価表、取引書類への使用を含む。)してはならない。

三  被告金田章敬は、その所持にかかる、被告金田差止標章を付した靴類、鞄類、右商品の包装、又は右商品に関する広告、定価表若しくは取引書類を、被告有限会社ミチカは、その所持にかかる被告ミチカ差止標章を付した靴類、鞄類、右商品の包装、又は右商品に関する広告、定価表若しくは取引書類を、それぞれ廃棄せよ。

四  被告らは、原告株式会社寿司に対し、各自金五〇万円及びこれに対する被告金田章敬については平成八年一一月二〇日から、被告有限会社ミチカについては平成九年五月三日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告金田章敬は、原告ムーンシャドウ ソシエテ ペル アチオニに対する関係で、被告金田差止標章を表示するネームシール、ラベルを製造し、所持し、引き渡し、又は譲渡もしくは引渡しのために所持してはならない。

六  被告金田章敬は、原告ムーンシャドウ ソシエテ ペル アチオニに対する関係で、同被告の所持にかかる被告金田差止標章を表示するネームシール、ラベルを廃棄せよ。

七  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

九  この判決は、第四項、第八項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告金田章敬は、別紙標章目録(一)記載の各標章及び「MOSCHINO」又は「モスキーノ」の文字を含む標章(以下「被告金田差止標章」という。)を、被告有限会社ミチカは、別紙標章目録(二)記載の各標章及び「MOSCHINO」又は「モスキーノ」の文字を含む標章(以下「被告ミチカ差止標章」という。)を、それぞれ、自己の商品、商品の包装、又は商品に関する広告、定価表若しくは取引書類に付して使用し、又は各被告についてそれぞれ差止の対象となった標章を付した商品を販売し、販売のために展示してはならない。

2  被告金田章敬は被告金田差止標章を、被告有限会社ミチカは被告ミチカ差止標章を、それぞれ、自己の営業表示として使用(看板、店内外装飾、マット、名刺、シール、広告、定価表、取引書類への使用を含む。)してはならない。

3  被告金田章敬は、その所持にかかる、被告金田差止標章を付した商品、商品の包装、又は商品に関する広告、定価表若しくは取引書類を、被告有限会社ミチカは、その所持にかかる被告ミチカ差止標章を付した商品、商品の包装、又は商品に関する広告、定価表若しくは取引書類を、それぞれ廃棄せよ。

4  被告らは、原告寿司に対し、各自金九〇〇万円及びこれに対する被告金田章敬については平成八年一一月二〇日から、被告有限会社ミチカについては平成九年五月三日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告金田章敬は、原告ムーンシャドウ ソシエテ ペル アチオニに対する関係で、被告金田差止標章を表示するネームシール、ラベル及びその他の物を製造し、所持し、引き渡し、又は譲渡もしくは引渡しのために所持してはならない。

6  被告金田章敬は、原告ムーンシャドウ ソシエテ ペル アチオニに対する関係で、同被告の所持にかかる被告金田差止標章を表示するネームシール、ラベル及びその他の物を廃棄せよ。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

8  第4項、第7項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  不正競争防止法に基づく請求の原因

1  当事者

(一) 原告ムーンシャドウは、イタリア法人であり、モスキーノ・ブランドを使用した衣料品、皮革製品、装身具、文房具、眼鏡フレーム、サングラス等のデザイン開発、製造販売、及び商標のライセンス事業等を主たる目的とする会社である。

原告寿司は、原告ムーンシャドウが日本においてモスキーノ・ブランドのライセンス事業を行うために設立した日本法人で、日本における衣料品、皮革製品、装身具、文房具、眼鏡フレーム、サングラス等の商標・デザインの利用・開発や販売促進活動、輸入商品の小売業務等を主たる目的とする株式会社である。

(二) 被告金田は、東京都及び兵庫県において、「ミキコーポレーション」、「モードロイヤル」、「金姫商店」等の屋号を用いて、なめし革を使用した皮革製品の製造販売を業としている。

被告ミチカは、靴の製造販売を主たる目的とする有限会社である。

2  原告らの商品等表示とその周知性、著名性

(一) 別紙標章目録(三)記載の標章(以下「モスキーノ標章」という。)は、原告ムーンシャドウのデザインするモスキーノ・ブランド商品、すなわち、日本国内においては、原告ムーンシャドウがイタリアで製造販売した商品の直輸入品、及び原告寿司から再使用許諾を受けたサブライセンシー企業が製造販売するライセンス商品を示す商品表示として、また、モスキーノ・ブランド・ビジネス、すなわち、日本国内においては、原告寿司及び右サブライセンシー企業によるモスキーノ・ブランドについての営業を示す営業表示として、日本国内で著名・周知となっている。

(二) その経緯は、次のとおりである。

イタリアのデザイナーであるフランチェスコ・モスキーノは、一九八三年、自己のデザインした服飾品等に、自己の名である「MOSCHINO」、「FRANCO MOSCHINO」を付して製造販売を始めたことに端を発し、その品質管理やデザインの良さ等に評価が高まり、鞄、靴、装身具等の製造販売も始めるようになった。別紙標章目録(三)の一の標章は、右モスキーノとそのスタッフからなる原告ムーンシャドウのデザインするモスキーノ商品を示す商品表示として、また、モスキーノ・ブランド・ビジネスを営む企業を示す営業表示として、全世界で著名・周知となった。

日本においても、原告ムーンシャドウは、昭和五九年から、伊勢丹百貨店等の卸売、小売業者を通じて、モスキーノ商品の日本国内への輸入販売、宣伝を行うと同時に、ライセンス事業を開始した。伊勢丹百貨店による国内販売が本格化するにつれ、それまでも海外における評判から周知性、著名性を獲得しつつあったモスキーノ標章は、国内における周知性、著名性を次第に確立していった。その後、ライセンス事業を更に発展させるために、平成六年に出資をして合弁会社である原告寿司を設立したが、その時点では、既にモスキーノ標章の国内での周知性、著名性は完全に確立していた。

原告寿司は、東京青山に直営店を構え、イタリアからのモスキーノ・ブランドの直輸入品を販売すると共に、原告ムーンシャドウからモスキーノ標章の日本における独占的使用許諾を受け、ライセンス事業を展開し、現在まで、日本における唯一のライセンシーとして、日本国内の業者一九社にモスキーノ標章をサブライセンスし、被服、靴、鞄、装身具、眼鏡、文房具等のライセンス商品の開発を行ってきた。その結果、全国の有名百貨店と専門店を中心に、モスキーノ商品が全国規模で販売されるようになった。

3  被告らの行為と標章使用のおそれ

(一) 被告金田について

(1) 被告金田は、ミキコーポレーションなる屋号で、別紙標章目録(一)の一及び三ないし六の標章(以下、個別に「被告金田標章一」のようにいう。)を付した後記商品の写真及び拡大した右標章を印刷した広告を配布しいた。

(2) 被告金田は、被告金田標章一、三及び四を付した婦人靴四種類、鞄五種類、紳士靴四種類を販売していた。

(3) 被告金田は、その経営する訴外株式会社アキと共同して、被告標章二を商標登録出願しており、また、被告標章七及び八を使用するつもりである旨言明している。

(4) 右の事情から、被告金田は、右各標章を含む被告金田差止標章を使用するおそれがある。

(二) 被告ミチカについて

(1) 被告ミチカは、別紙標章目録(二)記載の各標章(以下、個別に「被告ミチカ標章一ないし三」という。)を付した革製婦人靴を製造販売している。

なお、被告ミチカは、被告金田から被告ミチカ標章一ないし三のラベルの提供を受けている。

(2) 右の事情から、被告ミチカは、右各標章を含む被告ミチカ差止標章を使用するおそれがある。

4  モスキーノ標章と被告ら標章との類似性

(一) 被告金田標章一、三ないし五は、「MOSCHINO CAMERIO」の文字からなる標章であり、被告金田標章二は、「MOSCHINO NICOLE」の文字からなる標章であり、被告金田標章六は、「モスキーノ」の文字からなる標章であり、被告金田標章七、八は、「MOSCHINO CAMERIO ITALY」の文字からなる標章である。

被告ミチカ標章は、いずれも「MOSCHINO CAMERIO ITALY」の文字からなる標章である。

(二) 被告らの使用する「MOSCHINO CAMERIO」、「MOSCHINO NICOLE」、「MOSCHINO CAMERIO ITALY」、「モスキーノ」の標章は、いずれも、著名、周知である「MOSCHINO」という標章に「CAMERIO」、「NICOLE」を加えたに過ぎないか、右標章の日本語訳に過ぎないから、外観、称呼、観念のいずれにおいても、モスキーノ標章と類似する。

ある標章が著名である場合には、その著名な標章と他の文字が結合した標章は、その著名な標章と類似する標章というべきであるところ、被告ら標章は、著名標章である「MOSCHINO」と「CAMERIO」、「NICOLE」又は「CAMERIO ITALY」を結合した標章であり、モスキーノ標章と類似するものであることは明らかである。

また、大小のある文字からなる標章は、大きさの相違するそれぞれの部分からなる標章とみなし、それぞれの部分について類似性を判断すべきであるところ、被告ら標章は、「MOSCHINO」を大きく表示し、それに付随して相対的に小さい文字で「CAMERIO」又は「CAMERIO ITALY」と表示するものであるから、被告ら標章の「MOSCHINO」の部分と、原告らの「MOSCHINO」標章との類似性を判断すると、両者は全く同一である。

「ITALY」をさらに付したとしても、これはあくまで産地を表わすものであるに過ぎず、標章としての一体性に欠け、侵害標章の類似性を否定する理由とはなり得ない。

なお、「MOSCHINO CAMERIO」、「MOSCHINO NICOLE」のいずれも姓名として一体のものと見ることはできない。なぜなら、「MOSCHINO」が本国イタリアにおいて姓を表す語であり(原デザイナーはFranchesco Moschino氏であることからも明らかである。)、イタリア人の姓名は通常「姓」の方を後置するにもかかわらず、被告ら標章は「MOSCHINO」を前置するものであるし、「CAMERIO」「NICOLE」の部分についても、イタリア人の一般的な姓名には相当するものが存在しないからである。

5  原告らの商品等表示との混同

被告らの各差止標章の使用は、取引の実状等を考慮すれば、原告らの商品、営業との混同のおそれを生じさせるものである。

6  被告らの故意

被告らは、モスキーノ標章が日本国内で著名、周知である原告らの商品表示、営業表示であり、これらと類似する標章を付した商品を販売すれば原告らの商品、営業との混同のおそれを生じさせることを知りながら、前記3の行為を行った。

7  原告寿司の損害

原告寿司が被告らと同様の営業内容の国内のサブライセンシーから通常受けるべき初年度のミニマム・ロイヤルティーの額は少なくとも九〇〇万円であるから、被告の行為により原告寿司の被った損害額は少なく見積もっても九〇〇万円を下らない。

8  まとめ

よって、原告らは、被告らに対し、不正競争防止法に基づき、

(一) 原告らは、被告らに対し、請求の趣旨1ないし3記載のとおり、差止標章の商品等、営業への使用等の差止め、及び差止標章を付した商品等の廃棄

(二) 原告寿司は、被告らに対し、請求の趣旨4記載のとおり、損害賠償金九〇〇万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い

を求める。

二  商標権に基づく請求の請求原因

1  当事者

前記一1のとおり

2  原告ムーンシャドウの商標権

原告ムーンシャドウは、次のとおりの商標権を有する。

(一) 本件商標権一

登録番号 第一八八八六一四号

登録商標 別紙標章目録(三)の一のとおり

出願年月日 昭和五九年二月二七日

出願公告年月日 昭和六一年一月二〇日

登録年月日 昭和六一年九月二九日

存続期間更新登録年月日 平成九年二月二七日

指定商品 第二一類(旧分類) 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具

(二) 本件商標権二

登録番号 第一七九二六二〇号

登録商標 別紙標章目録(三)の二のとおり

出願年月日 昭和五八年六月一七日

出願公告年月日 昭和五九年一二月一八日

登録年月日 昭和六〇年七月二九日

存続期間更新登録年月日 平成七年一二月二五日

指定商品 第二一類(旧分類) 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具

(三) 本件商標権三

登録番号 第一八八二三九一号

登録商標 別紙標章目録(三)の一のとおり

出願年月日 昭和五九年二月二七日

出願公告年月日 昭和六〇年一二月一八日

登録年月日 昭和六一年八月二八日

存続期間更新登録年月日 平成九年一月三〇日

指定商品 第二二類(旧分類) はき物、かさ、つえ、これらの部品及び附属品

(四) 本件商標権四

登録番号 第三一〇九〇二二号

登録商標 別紙標章目録(三)の三のとおり

出願年月日 平成四年四月二八日

出願公告年月日 平成七年三月一六日

登録年月日 平成七年一二月二六日

指定商品 第一八類 原革、模造皮革、その他の皮革、トランク、その他のかばん類、日傘、その他の傘、ステッキ、つえ、むち、その他の乗馬用具

(五) 本件商標権五

登録番号 第三〇七二二三二号

登録商標 別紙標章目録(三)の三のとおり

出願年月日 平成四年四月二八日

出願公告年月日 平成六年一二月二日

登録年月日 平成七年八月三一日

指定商品 第二五類 帽子、その他の被服、履物

3  被告らの行為と標章使用のおそれ

(一) 前記一3のとおり

(二) 被告金田が販売している婦人靴、婦人向け鞄、紳士靴等は、商標法上の指定商品区分によれば、第一八類又は第二五類(旧分類としては第二一類、第二二類)に属し、本件各商標権における指定商品にそれぞれ該当する。

被告ミチカが製造販売している婦人靴は、商標法上の指定商品区分によれば、第二五類(旧分類としては第二二類)に属し、本件商標権三及び五における指定商品に該当する。

(三) 被告金田は、「MOSCHINO CAMERIO ITALY」という標章を、「CAMERIO ITALY」の部分は小さく記載して表示するネームシール、ラベル(以下「被告金田差止標章ラベル」という。)を製造し、自ら使用するために所持し、又は、被告ミチカに譲渡ないしは引き渡し、そのために所持している。

4  モスキーノ標章と被告ら標章との類似性

前記一4のとおり

5  まとめ

よって、原告ムーンシャドウは、被告らに対し、

(一) 被告金田に対しては、本件各商標権に基き、被告ミチカに対しては、本件商標権三及び五に基き、請求の趣旨1ないし3記載のとおり、差止標章の商品への使用の差止め、及び差止標章を付した商品等の廃棄

(二) 被告金田に対し、本件各商標権に基き、請求の趣旨5、6記載のとおり、被告金田差止標章ラベルの製造等の差止め及び廃棄

を求める。

三  不正競争防止法に基づく請求の原因に対する被告らの認否

1  請求原因1(当事者)(一)は不知。同(二)は認める。

2  同2(原告らの商品等表示とその周知性、著名性)は否認する。

原告寿司が平成六年に設立された合弁会社であり、これを通じてモスキーノのブランドイメージを確立するために強力な宣伝活動を行ったのであれば、被告らがモスキーノ・カメリオという標章の使用を開始したのは平成八年であるから、強力な宣伝活動の開始から被告標章の使用開始まではわずかな時間しかないので、被告標章の使用時にモスキーノ標章が周知であったことは争う。

また、被告らの取り扱う商品は靴、鞄であるが、それについての周知性は十分立証されていない。

3(一)  同3(被告の行為と標章使用のおそれ)(一)(1)ないし(3)は認め、同(4)については、今後は、被告金田標章一及び二のみを使用する予定である。

(二)  同(二)(1)のうち、被告ミチカ標章三を付した革製婦人靴を製造販売していること、被告ミチカ標章三のラベルの提供を受けていることは認め、その余は否認する。同(2)は、争う。

(三)  被告金田は、かつて、被告金田標章三ないし八を使用していたが、今後は、前記のとおり、被告金田標章一及び二のみを使用する予定である。

被告ミチカは、被告ミチカ標章二は一切使用しておらず、当初は被告ミチカ標章一を使用していたが、現在は、被告ミチカ標章三を使用しており、今後は、被告金田標章一及び二のみを使用する予定である。

4  同4(モスキーノ標章と被告ら標章との類似性)は否認する。

「ヴァレンティノ」や「ニコル」等の著名ブランドに付加文字を付した多数のブランドが存在することから明らかなように、モスキーノに何らかの文字を付加すれば、原告らのモスキーノ標章と区別識別が可能となり、別個の出所識別力を有する。

5  同5(原告らの商品等表示との混同)は否認する。

6  同6(被告らの故意)の事実は否認する。

7  同7(原告の損害)は否認する。

四  商標権に基づく請求の原因に対する被告らの認否

1  請求原因1(当事者)については、前記三1のとおり。

2  同2(原告ムーンシャドウの商標権)は認める。

3(一)  同3(被告らの行為と標章使用のおそれ)(一)については、前記三3のとおり。

(二)  同(二)は認める。

(三)  同(三)(1)は、被告金田が、かって、被告金田標章三ないし八を表示したネームシールを製造、使用し、被告ミチカ標章一及び三を表示したネームシールを被告ミチカに譲渡、引き渡していたことを認め、その余は、否認する。同(2)は、被告金田標章一及び二を表示したネームシールを製造、使用する予定であることは認め、その余は争う。

4  同4(モスキーノ標章と被告ら標章との類似性)については、前記三4のとおり。

5  同5(被告らの故意)については、前記三6のとおり。

五  抗弁(使用許諾)

被告金田は、原告ら代理人から、本件訴訟の提起前に、当時同被告が使用していた「モスキーノ・カメリオ」という標章について、「カメリオ」の部分を大きくするなどしてほしい旨の申入れを受け、そのような変更をしたものであるから、変更後の標章の使用について原告は許諾したものである。

六  抗弁に対する認否

否認する。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一  不正競争防止法に基く請求について

一  弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証によれば、請求原因1(当事者)(一)の事実が認められ、同(二)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(原告らの商品等表示とその周知性)について

1  原本の存在及び成立に争いがない甲第二号証の一ないし二七、甲第二九号証の一ないし二一及び二三、甲第三〇号証、成立に争いがない甲第三三号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 平成三年発行の「世界の特選品'91(別冊家庭画報)」や平成八年発行の「世界の一流品大図鑑'96」において、モスキーノ標章及びこれを付した衣料品が、世界的なブランドとして紹介されている。

(二) 平成六年一〇月二六日付朝日新聞に、モスキーノ・ブランドの創始デザイナーであるフランコ・モスキーノの死亡後の原告らのモスキーノ・ブランドのビジネスの方針についての原告ムーンシャドウのゼネラルマネジャーのインタビュー記事が掲載された。

(三) 平成八年一月二六日号繊研新聞一面に、訴外三喜商事がモスキーノ・ブランドの婦人服の輸入販売に力を入れる旨の記事がトップ記事として報じられている。また、アパレル業界の専門紙である日本繊維新聞の平成九年三月五日号の、百貨店の改装についての記事の中で、モスキーノが「人気キャラクターブランド」として説明されている。

(四) モスキーノ標章及びこれを付した衣料品、皮革製品、装身具、文房具、眼鏡フレーム、サングラス、靴、鞄等の商品が、次のとおり、ファッション雑誌の紹介記事及び広告に掲載された。

(1) 平成元年

「デイ・バイ・デイ」平成元年夏号(各種バッグ)

(2) 平成三年

「フラウ」平成三年一〇月号(婦人服、婦人靴、財布、バッグ等)

(3) 平成四年

「クラッシー」平成四年一月号(婦人服)、「ヴァンサンカン」同月号(婦人服)、「ヴァンテーヌ」同月号(婦人服)、「ジェイ・ジェイ」同年二月号(婦人服)、「フラウ」同月号(婦人服)、「ヴァンサンカン」同月号(婦人服)、「ミス家庭画報」同月号(婦人服、装身具、ベルト)、「ル・クール」同年三月号(婦人服、靴、バッグ、装身具、文具)、「ラ・セーヌ」同年四月号(婦人服、ベルト)、「ヴァンサンカン」同月号(婦人服、装身具、靴、バッグ、眼鏡)、「ラ・セーヌ」同年五月号(婦人服)、「クレア」同月号(靴、バッグ、帽子、水着等)、「ハイファッション」同年八月号(婦人服)、「ヴァンサンカン」同月号(婦人服、ベルト)、「ラ・セーヌ」同月号(婦人服、バッグ、装身具)

(4) 平成五年

「エフ」平成五年七月号(婦人服、装身具)、「ヴァンサンカン」同年一〇月号(婦人服)、「フィガロジャポン」同月号(婦人服)、「ミス家庭画報」同月号(婦人服、スカーフ)、「ラ・セーヌ」同年一一月号(婦人服)

(5) 平成六年

「ヴァンサンカン」平成六年一〇月号(婦人服、装身具)、「家庭画報」同年一〇月号(婦人服、装身具)及び一一月号(標章自体)、「セサミ」同年冬号(子供服)

(6) 平成七年

「ミセス」平成七年四月号(婦人服、バッグ、装身具)、「ラ・セーヌ」同月号(婦人服、スカーフ)、「ジーキュージャパン」同月号(紳士服、ネクタイ等)、「フィガロジャポン“モスキーノ”スペシャル」同月号(婦人服、装身具、靴、バッグ、紳士服等)、「エル・ジャポン」同年五月号(標章自体)、「家庭画報」同月号(標章自体)、「ヴァンテーヌ」同月号(標章自体)、「フィガロジャポン」同年九月号(婦人服)、「ジーキュージャパン」同年一〇月号(紳士服、ネクタイ)、「フラウ」同月号(婦人服)、「オッジ」同月号(バッグ等)、「マリ・クレール」同月号(婦人服)、「ミセス」同年一一月号(婦人服、装身具)

(7) 平成八年

「ミス家庭画報」平成八年一月号(婦人服)、五月号(婦人服)、「シュプール」同年五月号(婦人服)、「ヴァンサンカン」同月号(婦人服)、「エル・ジャポン」同年六月号(婦人服)

(五) 前記(四)の雑誌等の毎号の発行部数は、各雑誌については、約九万部から約七八万部までの間であり、繊研新聞については、約二〇万部である。

2  以上の事実によれば、モスキーノ標章が、原告ら又は原告らから許諾を得た者の製造販売する衣料品、バッグ(鞄)、靴、装身具、文房具、眼鏡フレーム、サングラス等の商品の商品表示として、及びこれらを販売する原告寿司その他のライセンシー企業の営業表示として、遅くとも平成七年末には広く一般の取引者及び需要者の間で著名となり今日に至っていることが認められる。

被告は、被告らの取扱商品である靴、鞄についての著名性が立証されていない旨主張するが、前記のとおりモスキーノ標章が付された靴、鞄についても平成元年から数種類の雑誌に掲載されていること、及び靴、バッグ類(鞄類)は、衣料品、装身具と共にファッション性が高く、商品表示を共通にする場合がしばしばあることによれば、靴、鞄についても取引者及び需要者を含む一般の取引者及び需要者の間で、モスキーノ標章が商品表示及び営業表示として著名であると認められるから、被告らの主張は採用できない。

三  請求原因3(被告らの行為と標章使用のおそれ)について

1  被告金田が被告金田標章一及び三ないし六を付した商品の写真及び拡大した右標章を印刷した広告を配布していたこと、被告金田標章一、三及び四を付した婦人靴四種類、鞄五種類、紳士靴四種類を販売していたこと、その経営する訴外株式会社アキと共同して、被告金田標章二を商標登録出願していることは、当事者間に争いがない。

被告ミチカが、被告ミチカ標章一及び三を付した革製婦人靴を製造販売していたことは当事者間に争いがない。

被告ミチカ標章一と同二とは、極めて類似している。

そして、被告らは、本件訴訟において、今後、被告金田標章一及び二を使用する意思がある旨言明し、また、被告金田標章一ないし六及び被告ミチカ標章一ないし三について、モスキーノ標章との類似性を争っている。

2  これらの事情によれば、被告金田が、被告金田標章一ないし六を含む被告金田差止標章を、被告ミチカが、被告ミチカ標章一ないし三を含む被告ミチカ差止標章を、靴類、鞄類の商品、靴類、鞄類の製造、販売の営業にそれぞれ今後も使用するおそれがあるものと認められる。

各被告が各差止標章を右以外の商品及び営業に使用するおそれを認めるに足りる証拠はない。

四  請求原因4(モスキーノ標章と被告ら標章との類似性)について

1  被告金田標章一は、「MOSCHINO CAMERIO」の文字を、全体を同一の大きさで横書きしたものである。同標章三及び五は、「MOSCHINO」の文字の右横に、「CAMERIO」の文字を「MOSCHINO」の文字に比べて小さく横書きしたものである。同標章四は、「MOSCHINO」の右側下部に「MOSCHINO」の文字に比べて小さな文字で「CAMERIO」と横書きしたものである。

同標章二は、「MOSCHINO NICOLE」の文字を、全体を同一の大きさで横書きしたものである。

同標章六は、「モスキーノ」という文字を横書きし、「モ」の文字の左と、「ノ」の文字の右と、各文字の間に細い縦線を配したものである。

同標章七及び八は、「MOSCHINO」の下に、「CAMERIO ITALY」という文字を、「MOSCHINO」の文字に比べ小さく横書きし、同標章七は、右文字と外側が細い実線、内側が細い破線からなる二重線の長方形の枠で囲んだもの、同標章八は、細い横縞の長方形のバックに右文字が白抜きで表示されているものである。

被告ミチカ標章一及び二は、「MOSCHINO」の下に、「CAMERIO」という文字を、「MOSCHINO」の文字に比べ小さく横書きしたものであり、同標章一は、右文字を被告金田標章七と同様の二重線の長方形の枠で囲んだものでである。

同標章三は、「MOSCHINO」の下に、「CAMERIO」の文字を「MOSCHINO」の文字に比べ小さく横書きし、それらの二段の文字の右側に、下方から上方へ「ITALY」を更に小さな文字で横書きし、それらの文字全体を細い実線の長方形の枠で囲んだものである。

2  モスキーノ標章一は、単にその文字のみを見ると「モスチノ」又は「モシノ」と読まれる可能性があるが、前記二で認定したモスキーノ標章の著名性を考慮すれば、モスキーノ標章一に接した取引者、需要者は「モスキーノ」と読むものと認められるから、モスキーノ標章一は「モスキーノ」の称呼を生ずるものである。

被告金田標章六からは「モスキーノ」の称呼を生ずることは明らかであるから、被告金田標章六は、モスキーノ標章一と称呼を同一にするもので、モスキーノ標章一と類似する。

3  前記二で認定のとおりのモスキーノ標章の著名性を考慮した上、標章が使用された商品である婦人靴、紳士靴、鞄の一般的な取引者及び需要者の通常有する注意力を基準とすれば、被告金田標章三ないし五、七、八及び被告ミチカ標章一ないし三は、大小のある文字からなり、「MOSCHINO」の文字部分のみが大きく表示されているものであるから、右部分が各標章の中心的な識別力を有する要部であると認められ、また、被告金田標章一、二についても、モスキーノ標章の著名性、「MOSCHINO」の文字が左側、つまり、左から読む場合の前半に、後に続く文字との間を区切って配されていること、原本の存在及び成立に争いがない甲第四号証の一ないし三によれば、「CAMERIO」、「NICOLE」という文字が、イタリア人の一般的な姓名でもないことが認められ、その他、我が国の一般的な取引者及び需要者の注意を特段惹くような事情は認められないことから、「MOSCHINO」の部分が各標章の中心的な識別力を有する要部であると認められる。

右各被告ら標章の要部である「MOSCHINO」の部分は、モスキーノ標章一と外観は実質的に同一で、称呼は同一であると認められるから、結局、これらの各標章は、モスキーノ標章一と類似する。

4  更に、前記認定のとおり、被告らは、従前「MOSCHINO」の文字と他の文字を組み合わせた標章で「MOSCHINO」の部分のみを大きく表示した標章を使用していたこと、「MOSCHINO」の文字は、我が国においては、モスキーノ標章以外には日常使われるものではなく特徴あるものであり、この文字を含む標章であれば一般にモスキーノ標章一と類似していると認められるから、被告金田差止標章及び被告ミチカ差止標章全体と、モスキーノ標章一とが類似するものと認められる。

五  請求原因6(被告らの故意)について

前記二のとおりの原告らの商品等表示の著名性、前記四のとおりのモスキーノ標章と被告ら標章との類似性によれば、請求原因6の事実が認められる。

六  請求原因7(原告寿司の損害)について

原告寿司は、被告らと同様の営業内容の国内のサブライセンシーから通常受けるべき初年度のミニマム・ロイヤルティーの額は少なくとも九〇〇万円である旨主張し、甲第一号証(原告寿司の取締役の陳述書)にはその旨の陳述記載がある。しかし、右金額は相当に高額である上、原告寿司とサブライセンシーとの契約書の内容を開示することにより容易に直接立証できるのに立証しようとしない原告の態度を考えると、甲第一号証のみでは、原告寿司の右主張を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そして、前記二のとおりの原告らの商品等表示の著名性、前記三のとおりの被告らの行為の性質、態様等の事情に、被告らの行為については、右認定の程度の概括的な事実しか認定することができず、被告らの各標章を付した商品の販売数等を具体的に認定するに足りる証拠のないことを総合して、被告らそれぞれについて、各五〇万円を通常使用料相当額と認める。

七  抗弁(使用許諾)について

被告金田は、本件訴訟の提起前、原告ら代理人と被告金田との間で、被告金田が「モスキーノ・カメリオ」なる標章を使用していることについての交渉がされ、原告代理人から、「カメリオ」の部分を大きくするか、「モスキーノ」の前に表示するようにとの趣旨の申入れがあり、被告金田がそのような変更をしたものであるから、変更後の標章の使用について原告が許諾した旨主張する。

しかし、右のような事実を認めるに足りる証拠はなく、しかも、被告ら標章の使用について、弁護士である代理人が、使用料の定めもせず書面を作成することもなく承諾するというようなことは、極めて不自然で到底考え難いものであるから、甲第一五号証の陳述記載も併せて考慮すれば、抗弁事実は認められない。

第二  商標権に基づく請求について

一  請求原因1(当事者)については、前記第一、一のとおり。

二  請求原因2(原告ムーンシャドウの商標権)については、当事者間に争いがない。

三  請求原因3(被告らの行為)について

1  前記第一、三のとおり。

2  請求原因3(二)の事実は、当事者間に争いがない。

3  被告金田が、被告金田標章三ないし八を表示したネームシールを製造使用していたこと、被告ミチカ標章一及び三を表示したネームシールを製造使用する予定であることは、当事者間に争いがない。

4  前記1ないし3の事実によれば、被告金田が、今後も、被告金田差止標章を表示するネームシール、ラベルを製造、所持し、引き渡す等のおそれがあると認められるが、「その他の物」とは特定が不十分で、具体的に何を指すのか不明であり、それについて右の行為がされるおそれを認定することはできない。

四  請求原因4(モスキーノ標章と被告ら標章との類似性)中、別紙標章目録(三)一の標章(本件商標権一及び三にかかる商標)と被告金田差止標章との類似性については、前記第一、四のとおり。

五  抗弁(使用許諾)については、前記第一、七のとおり。

第三  まとめ

よって、不正競争防止法に基づく請求については、同法二条一項二号、三条に基づき、請求の趣旨1ないし3記載のとおりの裁判を求める部分は、主文一ないし三記載のとおりの差止標章の靴類、鞄類への使用及び靴類、鞄類の製造、販売の営業等への使用の差止め、並びに差止標章を付した商品等の廃棄を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却し、同法二条一項二号、四条に基づき、請求の趣旨4記載のとおりの裁判を求める部分は、原告寿司が、被告らそれぞれに対し、損害賠償金各五〇万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日である、被告金田については平成八年一一月二〇日から、被告ミチカについては平成九年五月三日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却する。

商標権に基づく請求については、商標法三七条五号ないし七号、三六条に基づき、請求の趣旨5、6記載のとおりの裁判を求める部分は、主文五、六記載のとおりの差止標章の表示物の製造等の差止め及び廃棄を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却し、請求の趣旨1ないし3記載のとおりの裁判を求める部分は、不正競争防止法に基く請求と選択的に併合されているものと解されるから、不正競争防止法に基づく請求として認容した部分は判断する必要がなく、不正競争防止法に基づく請求が棄却された部分は、指定商品の同一性、類似性がないので請求は理由がなく、棄却を免れない。

そして、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

別紙

標章目録(一)

〈省略〉

〈省略〉

標章目録(二)

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標章目録(三)

〈省略〉

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